どんな姿を、見せてくれる?
長い睫毛の、その奥の瞳。まっすぐに見据えながら、慎二は心内で問いかける。
「もしあなたに好意を持ってしまったら、傷つくのは彼女だわ」
智論の言葉に、無意識に即答していた。
「そんなコトには、ならないさ」
なぜ?
自問する。
なぜ、そう思う?
頭の隅で、自分を睨みつける鋭い双眸が揺れている。初めて対峙した時の、あの獣のような激しい視線。
女はみな浅慮で狡猾。自分へ向けられるのは、財力とこの涼しい風貌への羨望と欲望。
そう決め付けていた慎二の定義に、雷のように突き刺さった猜疑の眼差し。
大迫美鶴の、第一声。
そう、その眼差しは、声だった。
訝しげに見上げる美鶴の瞳が、慎二の胸を熱くした。
唐渓に入学して半年ほど。冷え切った周囲との関係に開き直りながら、ただ誰に対しても下卑た視線を投げ飛ばしていた美鶴の態度が、よもや慎二の気を引くことになっていたとは。
俺を疑うのか?
背筋が熱くなるのを感じた。
そうだ。俺を見かけで図ることはできない。
事あるごとに気にかけてくる母親。甘い香りで近寄る女性。
みんなみんな、騙されている。
「世間知らずの、おバカさんっ」
けたたましい笑い声と共に、降り注がれる侮蔑の言葉。あの女は、そうやって慎二を嘲笑った。
そうだ。俺はおバカさん。本物の愛なんてモノを信じた、くだらない世間知らず。
俺こそが浅慮で、俺こそが暗愚。
ならばいっそ、心の底まで落魄れよう。
背にまわした掌に力を込める。ほっそりとした身体が、腕の中に閉じ込められる。黒々とした睫毛と、唇が震える。
そのお互いが重なるのは、もう本当に時間の問題。
あの瞳が俺に持たせた、根拠のない期待。
俺を見透かす女もいる。
そんな期待を持ってしまったから、慎二は美鶴に興味を持った。
だが、根拠はない。
智論の言うように、この少女もまた他の女性のように、俺のミテクレに惑わされているのだとしたら?
わからない。
この少女が、俺の望む女性なのかどうか?
だったら、試してみようじゃないか。
涼しげな瞳を細め、甘く柔らかに見つめて魅せる。
パーティー会場で一人浮くのが心細いから? よくそんなくだらない理由を思いついたものだ。自分で言って、笑ってしまう。
同時に、そんな陳腐な理由でホイホイと京都まで付いてきた美鶴に、やや落胆もしていた。
この少女も、同じなのか?
わからない。
ならば、試してみようじゃないか。
そうだ。女を堕とすなど他愛もない。夜な夜なの所業を駆使すれば、相手が女でも問題はない。そう、相手が女でも―――
低劣な己が、今の慎二には心地よい。
さぁ どうする?
卑陋な声で問いかける。
俺に好意を持つヤツは、浅はかな下心を潜ませる悪女か、男を見る目の曇った愚女か。
大迫美鶴
さぁ君に、この俺を見抜くことができるかな?
かっ かっ かすっ
それが言葉になっているのかいないのか、美鶴にはそれすらもわからない。
ただもう頭が真っ白で、何がどうなっているのか。
ガクガクと震える全身の中で、背にまわされた掌だけが熱い。燃えるように熱い。
熱い――――
もはや自力で己を支えることもできない美鶴の身体を、二本の腕が抱え込む。指に力を加えながら、腰を支え、背の手が徐々に肩へとズレる。
背中の手が…………
―――――――っ!
聡っ!
気付いた時には、突き飛ばしていた。
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